漫画ナツ100 in 2007 選んだマンガの感想 1-10
余裕があったら感想も書きたいな(願望)とか書いていたので「どうせ書かないだろ」とか思っていたと思いますが、残念、それは私のおいなりさんだ。そういうわけで少し感想を書いてみたいと思います。最初のほうは「ほわっ」とした作品が多めとなっております。
001. 『スミレ17歳!!』(永吉たける)
身分不詳のオヤジが操るキュートな女子高生スミレ(という人形)の周囲で繰り広げられるドタバタ。というか、むしろオヤジ。スミレはオヤジに操られていて(しかも片手で!)、スミレの内面は実はまさにオヤジなわけで、オヤジ自身の描写もおよそスミレと関連するところでしか描かれないなか、第11話の終わりにオヤジのポケットからビールと枝豆を買ったレシートが落ちたときには(笑いながらも)なにか感動するものがありました。実はなにかしらの権力者なのだろうと思っていたのに、実に庶民的な晩酌をしているオヤジ。何者だ、オヤジ。ちなみに、『スミレ16歳!!』も好きです。あまり長期連載向きではないのではないかなと思っていたので、このあとどうなるのか楽しみです。002. 『妹は思春期』(氏家ト全)
どこか爽やかさの漂う下ネタ四コマ。『妹は思春期』は連載中はあまりちゃんと読んでいなかったのだけれど、コミック(全九巻)をまとめ読みして「これだけ下ネタを繰り返すのはすごいな」と感動した作品。学校が舞台になっているのですが、妹や生徒よりも教師連中(特に小宮山先生)のネタのほうが僕としては面白い。これは『女子大生家庭教師 濱中アイ』(全六巻)でもそうで、中村リョーコのような非常識なオトナたち(ないしリンコ)の自由奔放な発言に、常識的な節度をもった周りの人たちがツッコムさまが好きだったりします。003. 『みつどもえ』(桜井のりお)
丸井家三つ子三姉妹(六年生)を中心に小学校で繰り広げられるドタバタ。微エロというか微ロリ。というか、パンツ。コミックのしかも二巻から何気なく読み始めたのだけれど、チャンピオンで連載ということに気付いて妙に納得した作品です。ここに挙げた10作品のうちだと、もしかすると読んでて一番疲れる作品かもしれない(良い意味で)。004. 『みなみけ』(桜場コハル)
タイトルどおり「南家」三姉妹の日常を描いている作品。和む。ヤンマガを立ち読みしていて「やけに白い」と紙面の白さに驚いたのが出会い(背景がない)。だけど、面白い。特に間の取り方が好きなのだけれど、動きのない画面の連続で場面が展開されているので、読み始めたころは少し読み辛かった記憶があります。驚いたときに顔の周囲に描かれる王冠みたいなマークも、最初、それが意味していることに気付きませんでした。というわけで、図らずも僕のマンガ・リテラシが向上させられた作品でもあります。ちなみに脇キャラでは保坂先輩が好きです。にざかな『B.B.Joker』の修のように、格好良いはずのキャラクタが大真面目にアホをやっているさまはどこか胸を打つものがあります。005. 『よつばと!』(あずまきよひこ)
ちらほらと他のサイトのナツ100を覗いたのだけれど、だいたいどこのサイトでも『よつばと!』は挙げていたような気がします。実際、圧倒的に面白いと僕も思うし、一読して「面白い」そして「素直にすごい」と思った稀有な作品。決して特異なわけではないのだけれど、台詞回しや状況の描写に独特のユーモアがあって、不思議と爆笑してしまう場面も多いです。しかも、笑わせながらも、どこか郷愁を誘うものがあるから泣けてきます。個人的に、島本和彦のいう「誰も傷つけない笑い」とはこういうものかと思ったりしています。あと余談ですが、『よつばと!』のコマの中身は決して登場人物の視界にはならないという考察がどこかのサイトでされていたと思います。つまり、読者は登場人物に感情移入して物語に参入するというよりは、登場人物たちの日常を覗き見ているという仕方で物語に接近する仕掛けになっているという考察で、実に感銘を受けた記憶があります。006. 『それでも町は廻っている』(石黒正数)
この位置にこの作品があるのは主人公の嵐山歩鳥を『よつばと!』の綾瀬風香から連想したからだと思います(変わった柄のTシャツを着ているところとか)。歩鳥の学校や商店街での奇想天外な言動や、タッツンツンおよび真田の恋愛模様もさることながら、メイド喫茶シーサイドのマスター、こと、ばあちゃんが歩鳥を子供の頃から可愛がっていたり、夜になると喫茶シーサイドが商店街の不良中年たちの溜まり場になっていたりと、歩鳥たちを取り巻いている大人や子供たちの人間同士の付き合いが、家とか町といったものの温かみを感じさせて楽しいです。ミステリをやったり、SFをやったりと話のバリエーションも豊富。台詞や絵柄のパロディも多いので、そういうのに気付いてにやにやするのも面白いです。007. 『シャーリー』(森薫)
13歳少女メイド「シャーリー・メディスン」の登場する物語(五話)と、読み切り短編二作がまとまめられたコミック。どうして『シャーリー』なのかというと『エマ』を選ぶのは芸がないかなと思っただけで、それほど特別な思い入れがあるわけではないのですが、「13歳少女メイド」という字面にびびっときた人は読むと確実に幸せになれます。『エマ』第一巻で眼鏡を外すシーンに一頁使っていたり、『エマ』第三巻でメイド服を着るシーンに二頁使っていたりしていて、「そこが大事なんです!」と作者の興奮するさまがあとがきで描かれたりしていましたが、『シャーリー』ではなんと「スカートがぶわっと広がる」ことにシャーリーが感動するシーンに四頁使っています。あれにはさすがにやられました。本当に作者は女性なんでしょうか。ちなみに『エマ ヴィクトリアンガイド』は本当に勉強になります。断言できるわけではないけれど、『エマ』は資料性の高いマンガでもあるように思います。008. 『謎の彼女X』(植芝理一)
『ディスコミュニケーション』が謎の彼氏だったのに対して、今度は謎の彼女の登場。好きな子のよだれは甘い。というわけで、まだ一巻しか読んでないので迂闊に感想をいうのは危ういですが少しだけ。『ディスコミュニケーション』で画面を埋め尽すほどに描かれていた神秘的なオブジェはかなり減っていて、あの細部まで書き込まれた緻密な世界も夢のなかで描かれるだけに留まっています。また、象徴的な表現もかなり減っているのですが、不穏な空模様と陰の落ちた町並み、そして「丸い夕陽」は(おそらく意図的に)かなり頻繁に使われています。あの独特の雰囲気のなかで、いまのところいちおう普通の日常を送っている二人が、どういう風にお互いの距離を理解し合いながら二人だけの関係を構築していくのかとても楽しみです。ちなみに、第一巻のあとがきが面白かったのでちょっと引用。十七歳の少年に彼女ができるという状況は、実は、いわゆる「ロボット・アニメ」における状況に近いのではないか、と思うのです。少年が、巨大ロボットという圧倒的な存在の操縦者となることによって始まる、歓喜と戦慄の日々。少年が、女の子という圧倒的な存在と両思いになることによって始まる、喜びと戸惑いの日々。少年が未知なるものと出会い、新しく開かれ始めた世界の中で右往左往するという点において、この二つは似ているのではないか。